LOGINガチャッ
二人が談笑しているところへ、いきなり水を差すように部屋のドアが開いた。二人は驚いてそちらへ振り向く。
「ど、どうしたんだ?」と颯が突然の来訪者へ向かって尋ねた。どうやら彼の知り合いのようだ。
「ひょっとして......」虎白は勘づく。「ハヤテの元カノ?」
虎白の言葉は颯へ
「私はハヤテの彼女。てゆーかコイツがアンタの浮気相手??」
女は颯を睨みつけた。
「ちょっと待て」颯が立ち上がる。「リコとは昨日別れたよな? いやその前になんでここに入って来ることができたんだ?」
「これよ」女はキーを手に持って見せた。「スペアを作っておいたの」
「い、いつの間に!?」
「もちろんハヤテに気づかれないようにだけど」
「お、おまえ、それ、悪質なストーカーと同じだろ......」
「はあ!?」女はキーを思いきり颯に向かって投げつけた。「加害者のクセしてなに被害者ヅラしてんのよ! このクズ男!!」
「お、おい、近所迷惑になるから騒ぐなって」
「もう浮気はしないって約束したわよね!?」
「あれからはもう女遊びはしてないって昨日も言っただろ?」
「浮気がバレる前に私のことを捨てたってだけでしょ!」
「違うっての!」
「じゃあその女は誰よ!?」女が虎白を指さした。
「ぼ、ボク??」虎白は仰天する。
「待て待てコイツは男だよ」颯はうんざりしたように溜息をつく。「被害妄想もいい加減にしてくれ」
「ひがいもうそう? 今アンタ、被害妄想って言った??」
ただでさえ激怒していた女の怒りのボルテージが俄然急上昇する。どうやら触れるべきでないスイッチを押してしまったようだ。
「だから落ち着けって」と颯がなだめようとするが、手遅れだった。
「私が今までどれだけ辛くて苦しい思いをしていたかわかる!? それがすべて私の被害妄想のせいだって言うの!?」
「そ、そこまでは言ってないだろ」
「いいや、あなたは思ってる! 私が傷つくことなんてどうでもいいと思ってる!」
「そんなこと思ってないって! そうやって勝手に思い込むのはやめろ!」
「思い込み??」
「思い込んでるだろ。そもそもコイツは男だし」
颯は虎白の肩に手を置いた。
「そ、そうです!」何か言わなきゃと虎白も声を吐いた。「ボクとハヤテは同性の友達です!」
「ああ、そういうことなのね......」
女は妙に静かな反応を見せる。不気味だった。
「リコ......?」
「ハヤテもその女も、私を惨めで可哀想な女だと思ってバカにしているのね......」
「お、おい、なにを言ってんだ?」
「もう耐えられない......」
「リコ?」
「ころしてやる......」
「えっ?」
「殺してやるっ!」
女は肩に下げたバックから何かを取り出すと、バッグを床に投げ捨てた。
「なっ!?」と二人が目を見開いたのも束の間、女は颯に向かって勢いよく突っ込んできた。
「あああ!!」
颯と女が折り重なるように床に倒れた。いや、正確には少し違う。二人の間には虎白の小柄な体が挟まっていた。すんでのところで虎白が親友の盾になっていたのだ。
「ごふっ......」
虎白はえずいた。大量の吐血とともに。彼の腹部には、刃渡り二十センチの包丁が見事に突き刺さっていた。
・
結局、彼は病院到着前に亡くなった。
凶器は肝臓を貫通し、大動脈や
こうして、火野虎白の人生は、まだ若くしてその幕を閉じたのである。閉じたのであったが......。
何の因果か。どんな運命なのか。彼はこれから、別の者として新たな人生を歩むことになるのである。しかもそれは、この世界の話ではなかった。
ここに今、転生した魔女の物語が始まる。
【1】「ど、どうしよう、このまま閉じ込められたままだったら......」 がっくりと膝をついた。もう何時間経ったのだろう。閉ざされた薄暗い部屋で目が覚めてから。時計もなければ窓もないので昼夜もわからない。ただただ途方もなく感じる。「やっぱりこれって、閉じ込められているとしか考えられないよね。でも......」 中央に寝台があるのみの閑散としている部屋は、妙に広い。おまけに天井がやけに高い。牢獄というには些か様相が異なる。目立った汚れや埃も見当たらず、まるで掃除が行き届いているかのように思える。「ここはどこで、ボクはいったい何者なんだろう......」 改めて確かめるように自らの身体を触り、長い髪の毛を撫でた。確かに女の肉体だ。「まさか女装していたボクが、本物の女の子に生まれ変わってしまうなんて......」 それが自分にとって喜ばしいことなのかどうかはわからない。というより、そのことについてどうこう考える余裕がなかった。今はとにかくこの状況を何とかしなければならない。「い、いったん整理しよう」 寝台に腰かけて深呼吸する。そして目覚めてから今に至るまでに理解したことを確認する。「まず......ボクは生まれ変わった。あの時、刺されて死んだはずだったボクが。謎の女の子に生まれ変わってしまった。にわかに信じがたいけど。しかもボクには生まれ変わる以前の記憶がしっかりと残っている。火野虎白の記憶が」 荒唐無稽すぎる話だ。しかし、何度も繰り返し考えてみても、そうとしか思えなかった。自分で自分の頭は大丈夫かと疑ってしまうが、時間が経つにつれて現実感は増すばかりだ。 直感的な確信もある。転生したという確信。理由はわからない。だが、魂のレベルでそう感じさせる何かがあった。 目覚めてから数時間は経ったであろう今では、冷静さも取り戻している。「普通、生まれ変わるんなら、赤ちゃんから始まるんじゃないのかな......」 冷静になった分、ますます疑問も尽きない。それでも今は、わかることだけで何とかするしかなかった。 彼女は頭を切り替える。「結局、今のボクにハッキリとわかるのは、前世の記憶を持ったままで謎の女の子に生まれ変わり、部屋から出られない、ということだけか......つまり、ほとんど何もわからないのと一緒ということ」 フーッと大きく吐息をつく
ガチャッ 二人が談笑しているところへ、いきなり水を差すように部屋のドアが開いた。二人は驚いてそちらへ振り向く。「ど、どうしたんだ?」と颯が突然の来訪者へ向かって尋ねた。どうやら彼の知り合いのようだ。「ひょっとして......」虎白は勘づく。「ハヤテの元カノ?」 虎白の言葉は颯へ囁いたものだったが、女が反応する。「私はハヤテの彼女。てゆーかコイツがアンタの浮気相手??」 女は颯を睨みつけた。「ちょっと待て」颯が立ち上がる。「リコとは昨日別れたよな? いやその前になんでここに入って来ることができたんだ?」「これよ」女はキーを手に持って見せた。「スペアを作っておいたの」「い、いつの間に!?」「もちろんハヤテに気づかれないようにだけど」「お、おまえ、それ、悪質なストーカーと同じだろ......」「はあ!?」女はキーを思いきり颯に向かって投げつけた。「加害者のクセしてなに被害者ヅラしてんのよ! このクズ男!!」「お、おい、近所迷惑になるから騒ぐなって」「もう浮気はしないって約束したわよね!?」「あれからはもう女遊びはしてないって昨日も言っただろ?」「浮気がバレる前に私のことを捨てたってだけでしょ!」「違うっての!」「じゃあその女は誰よ!?」女が虎白を指さした。「ぼ、ボク??」虎白は仰天する。「待て待てコイツは男だよ」颯はうんざりしたように溜息をつく。「被害妄想もいい加減にしてくれ」「ひがいもうそう? 今アンタ、被害妄想って言った??」 ただでさえ激怒していた女の怒りのボルテージが俄然急上昇する。どうやら触れるべきでないスイッチを押してしまったようだ。「だから落ち着けって」と颯がなだめようとするが、手遅れだった。「私が今までどれだけ辛くて苦しい思いをしていたかわかる!? それがすべて私の被害妄想のせいだって言うの!?」「そ、そこまでは言ってないだろ」「いいや、あなたは思ってる! 私が傷つくことなんてどうでもいいと思ってる!」「そんなこと思ってないって! そうやって勝手に思い込むのはやめろ!」「思い込み??」「思い込んでるだろ。そもそもコイツは男だし」 颯は虎白の肩に手を置いた。「そ、そうです!」何か言わなきゃと虎白も声を吐いた。「ボクとハヤテは同性の友達です!」「ああ、そういうことなのね......
「ちゃんと綺麗にしてるじゃん」 日野虎白は友人の部屋を見回しながら感心した。「コハクがうるさく言うからな。ちゃんと一人でもキレイにしてんだよ」 颯はドリンクの入ったグラスをテーブルに二つ置くと、自分も床に腰を下ろした。「もう半年前だっけ? ハヤテが一人暮らしを始めた時はビックリしたよ。なんだかんだハヤテはまだしないと思ってたからさ。あ、飲み物ありがとう」 虎白はグラスを口に運んだ。「俺だって大学生の間は実家にいるつもりだったんだ」颯はテーブルに肘をついて頭を掻く。「姉貴と妹にブチ切れられたからなぁ〜」「でも、その原因は......」 虎白は正面に座る友人に向かって、じと〜っと怪訝な視線を貼りつける。「ああーそうだよそうだよ」颯は両手を上げて降参のポーズをとる。「原因は俺のせいだよ、俺の女遊びのせい。実家にも連れ込んでたからな。わかってるって」 もはや開き直ったのか、颯は明るく笑った。 そんな友人に虎白はため息を漏らすが、すでに慣れっこだった。親友はそういう男だ。「昔からハヤテはよくモテるから、つい遊んじゃうのかもしれないけどさ......もっと女の子のことを大切にしないと、いつか自分自身に返ってくるかもよ?」「なんだコハク、俺のこと心配してくれてんのか?」「それは心配するよ! 実家を追い出されるくらい遊ぶって、よっぽどだよ??」「姉貴も妹もカタイからなぁ〜」「ハヤテが軽すぎるんだよ!」「わかったわかった。これでも今は控えてるほうなんだから」「でも、今度の彼女とも別れちゃったんでしょ?」「それはあれだ、どうも合わなかったんだよな。ちょっとこう、俺には重いっていうか、真面目なんだけど思い込みが激しいタイプでさ」「ちゃんとやさしくしてあげてた?」「そのつもりだけど」「ホント?」「なんだよ、疑うのか?」「気になっただけだよ」 虎白は腕組みして口を尖らせる。彼は本気で友人のことを心配していた。そのうち修羅場になって刺されたりするんじゃないか? そんな想像さえ働いてしまう。「まあ、俺も反省はしてるよ」 わかっているのかいないのか、颯は頬を掻きながら一応の反省の色を表した。それからグラスを手に取り一口飲むと、今度は彼のほうが虎白に意味ありげな視線を向けてきた。「なに?」と虎